いじめ防止対策推進法研究

いずれも、文部科学省初等中等教育局児童生徒課
 「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査結果」(2015年度以前)
 「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(2016年度以降) より作成
  過年度の数値の修正(2023年8月30日公表、2024年8月29日公表)を反映済み
〔右上の図について〕 1件の重大事態が生命心身財産重大事態と不登校重大事態の双方に該当する場合、それぞれの重大事態に計上されているため、生命心身財産重大事態と不登校重大事態を合わせた件数は発生件数と一致しません。


 いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)は、平成25年(2013年)6月28日に制定され、同年9月28日に施行されました。
 同法は、「いじめ」について、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と規定しました(法2条1項)。
 同法は、28条1項において、重大事態について規定し、2つの類型を用意しています。
 第一は、「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」(同法28条1項1号)です。
 第二は、「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」(同法28条1項2号)です。
 重大事態が発生した場合、学校の設置者又はその設置する学校は、重大事態に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとされています(同法28条1項柱書)。
 また、学校の設置者又はその設置する学校は、調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものと規定されています(同法28条2項) 。
 学校は、重大事態が発生した旨を、地方公共団体の長等に報告しなければなりません(同法29条1項、30条1項、30条の2、31条1項、32条1項、5項)。
 かかる報告を受けた地方公共団体の長等は、当該報告に係る重大事態への対処又は当該重大事態と同種の事態の発生の防止のため必要があると認めるときは、附属機関を設けて調査を行う等の方法により、調査の結果について調査(再調査)を行うことができます(同法29条2項、30条2項、30条の2、31条2項、32条2項、5項)。

 いじめ防止対策推進法28条1項が定める重大事態が発生しているにもかかわらず、同法28条1項が求める調査が学校の設置者又は学校によって十全に実施されない事例が頻発しています。
 そこで、重大事態の調査に関する様々な問題について、いじめ防止対策推進法、「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成25年10月文部科学大臣決定、平成29年3月最終改定)、「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(文部科学省平成29年3月策定)等を手掛かりに論じることで、重大事態の調査が適切に実施されることに貢献したいと考えています。

 重大事態の調査が適切に実施されれば、重大事態への対処がよりよいものとなるとともに、当該重大事態と同種の事態の発生の防止にも資することとなるはずです。
 これにより、いじめ被害や学校の設置者又は学校の不適切な対応によって苦しむ被害児童生徒やその保護者の苦痛が少しでも軽減されることにつながることを願っています。


【これまでに公表した研究成果】


「文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(1)」関西大学法学論集70巻6号(2021)146-202頁

「文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(2)」関西大学法学論集71巻2号(2021)52-84頁

「文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(3)」関西大学法学論集71巻3号(2021)94‐141頁

「文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(4)」関西大学法学論集71巻4号(2021)91-123頁

文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(5)」関西大学法学論集71巻5号(2022)32-67頁

「文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(6)」関西大学法学論集71巻6号(2022)42-74頁

「文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(7)」関西大学法学論集72巻1号(2022)63-98頁

「文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(8)」関西大学法学論集72巻2号(2022)105-158頁

「文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(9)」関西大学法学論集72巻3号(2022)1-31頁

「文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(10)」関西大学法学論集72巻4号(2022)73-127頁

「文部科学省策定『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』の逐条解説(11・完)」関西大学法学論集72巻5号(2023)110-159頁 →2023年1月完結。

  →『逐条解説「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」』として関西大学出版部より、2023年刊行。

「いじめ防止対策推進法の10年と浮かび上がってきた課題」日本子どもを守る会編『子ども白書2023』(かもがわ出版、2023)146-147頁

【メディア掲載】

・「いじめで通院、転校も『重大事態ではない』 鹿児島市の中学校と市教委 専門家『報告・調査義務に違反』」南日本新聞2021年5月26日(コメントが紹介されました)

・「中2いじめで眼底出血、PTSD 鹿児島市教委は重大事態認定せず 2020年度 生徒は今春転校」南日本新聞2021年6月12日(コメントが紹介されました)

・「いじめ調査 拒む教委 不登校の中3男子 被害訴え」西日本新聞2021年6月17日(コメントが紹介されました)

「いじめ生徒名の遺族への『開示』、最高裁が命じたが…熊本県『秘匿が不可欠』姿勢変えず」読売新聞2023年6月7日朝刊(西部本社版)(コメントが紹介されました)

「『いじめ防止法』施行から10年 識者指摘 重大事態の典型例 教委への報告遅れ ずさんな情報共有」中日新聞2023年10月6日朝刊(愛知県高浜市立小学校におけるいじめの重大事態に対する学校・教育委員会の対応についての分析が掲載されました)

    *紙面とWebでタイトルが異なっています。

「室蘭いじめ調査 委員名を一転開示へ 『隠せば市民の疑念招く』 関西大・永田教授に聞く 公平性確保へ積極公開を」北海道新聞2023年10月13日朝刊(北海道室蘭市立中学校において発生したいじめの重大事態の第三者委員会に関する教育委員会の対応についての顔写真付きインタビュー記事が掲載されました)

    *紙面とWebでタイトルが異なっています。

「いじめ調査の委員増員へ 重大事態2件、負担軽減 室蘭市教委」北海道新聞2023年10月14日朝刊(公平性・中立性のチェックのため、いじめの重大事態の第三者委員会の委員の氏名を公表すべきとするコメントが紹介されました)

    *紙面とWebでタイトルが異なっています。

「委員名開示へ指針改定 室蘭いじめ 保護者や本人限定」北海道新聞2023年12月8日朝刊(公平性・中立性のチェックのため、いじめの重大事態の第三者委員会の委員の氏名を公表すべきとするコメントが紹介されました)

    *紙面とWebでタイトルが異なっています。

「いじめ調査 見えぬ着手 第三者機関 委員決まらず 室蘭の中3女子2人 市教委が重大事態認定 生徒卒業なら聴取困難 専門家『危機的状況』」北海道新聞2023年12月29日朝刊(いじめの重大事態の第三者委員会の調査開始が遅れると加害生徒が卒業してしまって聴き取りができなくなる可能性が高まることを指摘した上で、北海道内の専門職にこだわらずに委員の推薦依頼を行うよう提言するコメントが紹介されました)

    *紙面とWebでタイトルが異なっています。

「いじめ調査 全委員交代 室蘭市教委 道央の弁護士ら選任へ」北海道新聞2024年1月20日朝刊(調査の信頼性を高めるため、いじめの重大事態の第三者委員会の委員の氏名を公表すべきとするコメントが紹介されました)

紙面とWebでタイトルが異なっています。

「いじめ調査委員名公表 室蘭市教委、方針を一転」北海道新聞2024年2月22日朝刊(いじめの重大事態の第三者委員会が委員の氏名の公表を決めたことは、調査手続のルールを守り、専門性を発揮して調査を行おうとする意欲の表れだとするコメントが紹介されました)

「いじめ調査長期化 1年超も 旭川市教委 重大事態認定の3件」北海道新聞2024年6月13日朝刊(学校が調査主体となって実施しているいじめの重大事態の調査が時間を要している問題について、文部科学省の「不登校重大事態に係る調査の指針」に従って市教委が調査主体となって第三者委員会を設置して調査を行うべきだとするコメントが紹介されました)

紙面とWebでタイトルが異なっています。

「いじめ被害の苦痛を重視 旭川自殺再調査委 SNS調べ踏み込む 心理学・精神医学的に分析」北海道新聞2024年7月1日朝刊([1]重大事態の調査で得られる資料や情報には限界があるため、自殺という結果から見てその原因を探るという原調査の第三者委員会の分析手法は原因不明か複数の原因があるとしていじめと自殺との因果関係を否定する結論に至ることが確実な「結論ありき」のものであったこと、[2]再調査の第三者委員会は、いじめが自殺という結果に影響を及ぼしたか否かという視点で検討した結果、いじめと自殺との関係を肯定したこと、[3]こうした判断手法の違いが結論の違いを導いたことを指摘する識者談話が掲載されました)

紙面とWebでタイトルが異なっています。

【講演】


関西大学法学論集を閲覧可能です。




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