オセアニア刑事司法研究

白地図専門店「三角形」様(http://www.freemap.jp/)の無料地図データを使わせていただいております。
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 オセアニア諸国は、オーストラリア、パプアニューギニア、ニュージーランドを除けば、人口100万人未満の小国で占められています。他方で、例えば、キリバス共和国では、東西4000kmにわたって島々が存在するなど、広い地域に領土が点在していることも稀ではありません。
 このように、人口が少なく、領土が点在する国家において、刑事司法がどのように運営されているかは興味深い問題です。すなわち、人口が多くかつ人的流動性の高い国よりも、人口が少なく匿名性が低いことから、社会内処遇が機能しやすい可能性があります。また、人口が少ないために刑事司法に人的資源を割くことが困難である上、領土が点在していて人の移動に時間や費用がかかるため、刑事施設への収容を極力回避するなどの省力化を図る工夫がなされていることが予想されます。そして、我が国には存在しない刑事制裁が見受けられることも考えられます。
 それゆえ、オセアニア諸国の刑事司法や刑事制裁を研究することには、以下の3つの意義があると考えます。
 第一に、比較法的関心を満たすことが挙げられます。これらの国の多くがイギリス法やアメリカ法を継受していますが、どのように継受されているのかを検討することは、比較法上、有意義であると考えられます。
 第二に、刑種の少ない我が国に新たな刑事制裁をもたらす可能性が挙げられます。我が国では、死刑、懲役刑、禁錮刑、罰金刑、拘留刑、科料刑が主刑となっているにすぎず、刑罰の選択肢は決して多くありません。個々の犯罪者に適合した刑事制裁を賦科することは、犯罪者に適切な苦痛を与えたり、改善・更生・社会復帰に役立ったりするだけでなく、不必要な刑事制裁により人的・物的な資源が浪費されることを防ぐとともに、被害者や一般の国民が刑事司法運営に納得し、信頼を醸成することにもなります。これまであまり紹介されてこなかったオセアニア諸国には、優れた刑事制裁が存在する可能性があります。
 第三に、我が国の地方公共団体が犯罪者の処罰や処遇を行う際に役立つ知見が得られる可能性があります。これまで、我が国では、国レベルで全国で統一的に刑事司法運営がなされてきました。しかし、今後、地域における犯罪対策・治安対策がいっそう強く求められるようになるにつれて、犯罪対策・治安対策を実効化するために、地方公共団体が、犯罪予防だけでなく、犯罪者の処罰や改善・更生・社会復帰の働きかけをも主体的に担うべきであると考えられるようになる可能性が大いにあります。このような考え方は、奇想天外なものと捉えられるかもしれません。しかし、犯罪者の改善・更生・社会復帰に向けて、就業をはじめとする生活基盤を強固にする必要があるため、犯罪者の生活していた地域に密着した対応をとることが従来から求められてきたはずです。この考え方をよりよく実現するために、地方公共団体が処罰や改善・更生・社会復帰の働きかけを行う主体となることは、むしろ、望ましいとも考えられます。このような観点から、人口規模が小さく、刑事司法運営に費用や手間をかけ難いオセアニア諸国の刑事司法制度を参考にすることは有益であると思われます。
 もっとも、これらの国の刑事司法制度の実情を探ることには大きな苦労を伴います。刑事法分野での我が国における先行研究は皆無に等しく、他の法分野の我が国における先行研究も決して多いとは言えません。しかし、幸いなことに、インターネットを利用して条文等を入手することができるようになってきました。研究に当たっては、少しでも多くの情報を入手して、可能な限り、これらの国の刑事司法運営の実態に迫ることを目指しています。


【これまでに公表した研究成果】

 《オセアニアにおける死刑》

「オセアニアにおける死刑」関西大学法学論集67巻3号(2017)32頁以下 紹介ページ

 トンガの死刑制度及びパプアニューギニアの死刑執行再開に向けた動きを中心に紹介。


関西大学法学論集を閲覧可能です。