財産的刑事制裁研究

 罰金刑をはじめとする財産を剥奪の対象とする刑事制裁には、もはや可能性が残されていないのでしょうか――。

 刑事学が研究対象とする領域は広大であり、その領域は現在も拡大しています。罰金刑は、周知の通り、伝統的な刑罰です。また、被害弁償や没収も古代からの伝統的な制裁です。しかし、死刑や自由刑に比べて、その研究が活発であるとは言い難く、価値ある先行研究が正当に評価されてきたとは思われない状況にあります。

 果たして、罰金刑をはじめとする財産を剥奪の対象とする刑事制裁には、本当に可能性が残されていないのでしょうか。

 学問の、とりわけ法律学研究の醍醐味は、自明のこととされている「常識」を疑い、揺さぶり、新たな理論の構築を行うところにあります。研究に当たっては、「罰金刑は、支払ができない者には無意味な刑罰である」というこれまでの常識を疑い、揺さぶり、新たな理論の構築を行って、罰金刑をはじめとする財産を剥奪の対象とする刑事制裁の適用領域を拡大し、幅広く活用可能な量刑の選択肢として再生しようと努力しています。このことは、諸外国と比べて、罰金刑をはじめとする刑事制裁の利用やその位置付けが特殊なものとなって、言わば「ガラパゴス化」していると言ってよい我が国のこれらの刑事制裁にとって、意義あるものとなると思われます。

 研究に当たっては、罰金刑、没収刑、アメリカ等で導入されている被害弁償命令、刑事司法運営に要する費用・手数料の支払に焦点を当て、包括的に検討を行っています。検討対象とする刑事制裁の範囲が従来「財産刑」と称されてきた刑罰よりも広いことを明確にするため、「財産的刑事制裁」と呼んで区別することとしています。

 参考としているのは、主にアメリカ法、ドイツ法、ニュージーランド法ですが、それだけにとどまらず、オセアニアの島嶼国家・地域の刑事司法制度の研究からも間接的に多くの知見を得ています。

 これまでの研究においては、(1)罰金刑、没収刑、被害弁償命令、費用・手数料のそれぞれの目的と役割分担、(2)総額罰金制度や日数罰金制度に代わる罰金刑の新たな量定方法について検討し、提案してきました。


【これまでに公表した主な研究成果】

「刑事制裁としての被害弁償命令」日本刑法学会関西部会(2003.7)

「罰金刑の目的と量定」日本刑法学会(2007.5)

「法定刑への罰金刑付加及び罰金刑の徴収・執行に関する理論的検討(共同研究 罰金刑の諸問題)」日本刑法学会関西部会(2008.1)

「罰金刑の量定、執行・徴収及び適用拡大に向けた方策――罰金刑の目的を踏まえた検討――」日本刑法学会ワークショップ「罰金刑の諸問題」話題提供(2012.5)

Fines in the Japanese Criminal Justice System, 34 Kansai University Review of Law and Politics (2013), 1-16

『財産的刑事制裁の研究――主に罰金刑と被害弁償命令に焦点を当てて――』(関西大学出版部、2013)

「労役場留置の現状と課題――労役場留置の象徴的運用に向けた試論――」法律時報87巻7号(2015)24頁以下 など多数 


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